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第ニ話
頭が痛くなってきた。 「その顔だと、信じていないな」 「仕方ないんじゃない。そうですかって顔をされた方が痛いでしょ」
司くんは真剣なまま、晃くんは苦笑気味で私を見ている。
この状況は、まるで私の反応を待っているかのようで居心地が悪かった。
これは紛れもなく私の夢に違いない。
黙り込んだままの私を見つめ続けるふたり。 「……人間じゃないのね。人間じゃないなら、何なの?」 親切心たっぷりの質問に満足したのか、晃くんはいつも通りの笑みを取り戻しながら答えてくれた。 「あのね、僕らは悪魔なんだ。驚いた?」 「うん、とっても驚いたー」
嘘である、勿論。
聞きたいことを聞かなければ。 「悪魔のふたり組さん、私の夢に何の用があるの? いつになったら、出て行ってくれるの?」 「あー……。それは答え難いなぁ」 「何故? 貴方たち自身のことでしょう?」 「そうは言われてもね……」 「最初の質問には答えよう。しかし、あとの質問には答えられない」
渋る晃くんに代わり、司くんが答えてくれた。 「説明して」 「また驚かせてしまうかもしれないが、実は……」
眉間に皺を寄せ、先程よりも更に言い難そうにしている。
「申し訳無い。実を言うと、我々は逃亡者なのだ。 「ごめんねー、勝手に使わせて貰っちゃって」
本当である。
頭が混乱してきた。
申し訳なさそうに、それでも正当性を主張するように、このふたりは聞けば答えを返す。 夢なのに、何もかもがリアル過ぎる。 「おかしいなーって、思っているでしょ?」
晃くんが微笑みを崩さずに尋ねてきた。 「……思っている、思っているわよ。考えていることを言いましょうか」 「どうぞー」 「まず、これを純粋な私の夢だと仮定する。そうすると、会ったこともない悪魔ふたりに毎晩邪魔されることなんて有り得ない。次に、これが夢のかたちをした何か別のものだと仮定する。そうすると、この有り得ない展開も寛大に包容可能となる。しかし、夢のかたちをした何かって何なのぉ! そう叫びたくなる。現実的に考えれば、これもまた有り得ない話。つまりは、どちらを選択しても釈然としないまま」 「おー、頭良いねー」 「誰だってわかることでしょう」
睨まれ足りないらしいので、今度は凄んでみせる。 「これって結論から言っちゃうと、夢の中に夢ではないものが混ざっていることになるわけでしょう? 夢って割り切って考えるから、無理がある。夢じゃないって考えるから、無理がある。ふたつの間に妥協点を見付ければ、問題は解決する」 「良く出来ましたぁ」 「うむ、良いと思う」
悪魔ふたりに誉められたが、何故だか馬鹿にされている気分になる。 「それで、この結論は正解なの? いや、正解だと困るかも。夢の中に夢ではないものが入っているなんて、やっぱり考えられない! それにさぁ……」
口が回り始めた。 「司くんの言ったことを信じれば、銀行強盗の人質みたいなものじゃない。たまたま偶然でしかない、可哀想な被害者さんなのよ! それなのに、今までそのことを黙っているなんて。信じられない! 一ヶ月も経っているのよ? えーい、この詐欺師! きっと結婚詐欺とかだって平気でやっちゃうような、極悪人なのね。晃くんが女の子を騙して、司くんが貢がせる為のお金を貸すんでしょう。そういう手口でしょう。悪魔って自分で言うくらいだもん、いっぱい悪いことをしているに違いないねっ」 「そんなぁ、酷いよー」 「酷過ぎるな」 「煩い」
その場の雰囲気に任せて、悪魔を一喝。 「あ、わかった。そういう酷いことをたくさんしているから、逃げなくちゃならなくなったんじゃない? ねぇ、違う?」
私はふたりに向いて、意地の悪い質問をしてみた。 その直後だった。 「大正解! おめでとうございます。これで貴方は救われました」 「いやぁ、苦労したねぇ……。悪魔っ子レーダーには引っ掛かるのに、ここまで辿り着くのには一ヶ月も掛かっちまったよ」
目の前のふたりが言ったのではない。
驚いて固まっている私に構うことなく、足音が悪魔ふたりに近付いていく。
ひとりは私の右へ、もうひとりは左へ。 「危ないですよ、噛み付かれます。下がっていてください」
左の人物から、すっと私の前に手が伸びる。 「あの、それってどういう……」 「言葉の通りですよ。噛み付かれて食べられてしまいます。消化され、行き着く先はドコソコアソコ」 「はぁ? 何言ってんの。僕が女の子に噛み付くなんて、するわけないでしょ。ふざけてんじゃねーよ」 「あ、晃くん?」
耳慣れない話し方の、それでも晃くんとわかる声が投げつけられた。 「あ、ごめんねぇ? 僕、男に対しては優しくないんだ」
なるほど、私に向けられる笑顔はいつもの晃くんのものだった。 「見ただろう? あれがあの男の本性さ」
右の大柄な人物が小さな声で教えてくれる。 それでも向こうまで届くには充分な大きさだったらしく、晃くんは声を荒げた。 「怯えた顔してんじゃねーよ、追い掛けてきておきながら!」 「追い掛けられ甲斐がないな」
司くんまで嘲るような笑みを浮かべて、晃くんに加勢する。 「ば、馬鹿。怯えてなんかいるか! 俺たちはだなぁ、職務を遂行する義務がある。そこにあるのは怯えではない、名誉だ!」 「良いことを言いますね、エスコタ」
明らかに怯えているのがわかったが、左の人物は微笑んで相方にエールを送っていた。
そこでふと気付く。 「あの、貴方たちは……?」 「ごめんなさい、自己紹介が未だでした。僕は歌声喫茶たし……ふがっ……」 途中で大柄な人物、エスコタに口を塞がれてしまった。 「まったく、妙な印象を残しちゃマズイでしょうが。梅玉らしいっちゃ、らしいけれどな」 「……ふがっ……い、息……」 「俺はエスコタって呼ばれていて、こっちは梅玉って呼ばれている」 「はぁ……、そうですか」
エスコタの腕の中でもがいているのは、梅玉というらしい。 「そんでもって、天使ね」
さらりと聞き流したくなる一言である。 第三話へ |
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